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第4部・地域おこし協力隊の思い (1)定着-川西・柚木大祐さん

2018/4/23 10:20
「いろいろな人との出会いが楽しい」と語る柚木大祐さん。かやを整える作業も手慣れたものだ=飯豊町黒沢

 4月初旬のよく晴れた日、その人は飯豊町黒沢の民家の屋根にいた。福岡市出身の柚木大祐(ゆのきだいすけ)さん(34)=川西町玉庭=は、山形大工学部・大学院で機能高分子を学んだ後、会社勤めを経て川西町の地域おこし協力隊に応募、同町に定着した異色の屋根ふき職人だ。

 「今になって思うと、会社勤めも悪くなかったかもしれないけど、(協力隊に応募した)当時は田舎で仕事する方が自由だし、最先端な気がしたんですよねぇ」とほほ笑む柚木さんの顔は、まだ4月だというのにすっかり日焼けして健康そうだ。

 とはいえ、最初から川西町に縁があったわけでもない。着任前の町の印象は「(学生時代にいた)米沢の隣、ぐらいの認識で、真っさらだった」と振り返る。

 決め手になったのは、町のホームページで見た先輩隊員たちの充実した活動報告。今でこそ県内で最多クラスの協力隊員が活動する同町だが、そこへ至るまでは曲折もあった。

 川西町が地域おこし協力隊の受け入れを始めたのは2011年度。当初は受け入れのノウハウもなく、1期生2人のうち1人は1年で東京に戻ってしまった。そこで12年度から、3年の任期のうち前半は町民の要望を受けて町が活動をお願いする「派遣活動」、後半は各人の「自主活動」を主とする独自の「年次段階カリキュラム」を設けた。

 「『自由に活動して』と言われても、見知らぬ土地に来て、いきなりやることを開拓するのは大変。前半は人脈づくりや仕事の進め方などを実地で学んでほしい」との狙いからだった。さらに、やりたいことが見つかったら、その実現を後押しする「町地域おこし協力隊スキルアップ及び定住支援事業補助金」を15年度に設けた。各種免許の取得や、活動に必要な機材購入などを金銭的に支援する制度だ。

 昨年10月に3年の任期を終えて“卒業”した柚木大祐さん(34)=川西町玉庭=も「町の支援で重機の免許や狩猟免許も取得できたし、チェーンソーなどを買うこともできた。派遣活動期間はパソコン教室やお年寄りの見守りなど、さまざまなことをやったが、後半には自由な活動を認めてくれたのもうれしかった」と感謝する。

 それにしても、なぜ屋根ふき職人に? 「元々、職人に対するあこがれもあったが、同じ地区(玉庭)に伊藤正三さんというベテランの屋根ふき職人がいたのが大きかった」と柚木さん。魅力的な先生の存在が決め手となり、指導を受けながら技を習得した。かやぶき職人は年々、減少傾向にあるが、県古民家再生協会などの協力もあり、仕事はけっこうあるのだという。

 屋根ふき以外にも自伐型林業を手掛けたり、農家の手伝いをしたりと活動は幅広い。自宅は空き家になりそうだった民家を無料で借り、近所からおかずのお裾分けをもらうことも。「勤めていたころに比べると、いろいろな出会いもあって楽しい」と今の暮らしがすっかり気に入った様子だ。今月には古民家鑑定士の資格も取得し、「将来は古民家再生も手掛けたい」と夢は広がる。

 これまで川西町で活動した協力隊員は20人で、14年度以降に受け入れた隊員は今月で任期を終える2人を含め、7人全員が町内に定着した。町まちづくり課は「協力隊OBを核にした新たなコミュニティーも生まれつつあり、間違いなく地域にとってプラスになっている」と語る。

 加えて町は、従来型のテーマを特に決めない隊員のほか、農業研修生や遅筆堂文庫研究員など、事前にミッションを決めた募集も始めた。農業研修生の第1号は、研修先の農事組合法人に就職し、町内に定住したという。人口増だけでなく地域課題解決も―協力隊への期待は新たなステージを迎えつつある。

 地域おこし協力隊員は、外からの視点と行動力を生かし、県内各地で新たな活力を生みだしている。年間企画「山形再興」第4部は隊員OBや現隊員らの思いをつづり、若者を呼び込み、定着を促進する方策を考える。

【地域おこし協力隊】人口減少や高齢化の進展を受け、地域力の維持、強化を目的とした制度。地方自治体が都市住民を受け入れ、隊員として委嘱。任期終了後、定住・定着を図る。本年度で制度運用10年を迎え、総務省のまとめでは全国で4000人以上が活動している。県市町村課によると、県内では今年2月1日現在、28市町村で107人が活動している。2017年3月末までの定住率は47.8%で、全国平均(62.6%)を下回っている。

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