山形再興

>>山形新聞トップ >>酒田大火40年~つなぐ記憶 >>酒田大火40年~つなぐ記憶(5・完) 多様化する住民の意識と生活

酒田大火40年~つなぐ記憶

酒田大火40年~つなぐ記憶(5・完) 多様化する住民の意識と生活

2016/11/1 14:50
酒田大火40年の企画展を担当する調査員柿崎歩水さん。大火の記憶を次世代につなげたいと話す=酒田市立資料館

 酒田大火被災地に建設された酒田市立資料館では、40年を迎えた10月29日から企画展を開催している。同館調査員柿崎歩水(あゆみ)さん(24)=同市新堀=が担当する。

 大火のことは小学校で学んだし、同館でも常設展示している。しかし、企画展の準備過程で経験者の話を聞き、無数の写真、映像、資料を見るにつれ、1774棟を焼損したひとくくりの「大火」ではなく、一つ一つの生活が失われた事実が生々しく伝わってきた。「歴史上の出来事ではない。今、ここで生きている人たちに続く出来事」

 企画展では、当夜の被災・避難情報を収集、伝達したアマチュア無線の非常通信音声を初めて一般公開、当時の映像、焼け跡から見つかったカメラ、復興の道のりなどを展示している。大火現場に出動した最後の現役消防士の一人・土井寿信酒田地区広域行政組合消防本部消防長(60)と被災地域を歩く事業(13日)も計画した。自身も経験者の話を聞き、記憶をつなげなければとの思いを強くした柿崎さん。「経験された方の言葉は胸に刺さる。直接聞いてほしい」と話した。

■社会科副読本

 酒田市は小学3、4年用の社会科副読本に大火を盛り込み、安全な暮らしを守る学習につなげている。家族への聞き取り調査に発展させる学校もあるが、学習内容は各校でまちまちだ。

 佐藤薫酒田市消防団長(62)が提案し、10月26日、被災地から少し離れた平田小で4~6年生93人を対象に大火の特別授業が開かれた。土井消防長が講演した。家族から大火の話を聞いた児童は数人。ほとんどが授業で大火を知っていた。記録映像や現場出動した土井消防長の話を見聞きする児童の表情は真剣だ。「映像で見たり、直接話を聞いたから怖さが分かった」「家族に火に注意しようと話したい」

 現在は学校でも地域でも、地震を念頭にした防災訓練、学習が中心になっている。しかし大火当日、アマチュア無線有志に非常通信を要請した元市職員の斎藤研一さん(65)は酒田大火をもっと教育に活用してほしいと強調する。「どんな災害でも備えの重要性は同じ。大火のあった酒田だからこそできる切り口だ」

 40年目の今年、土井消防長は連日講演に飛び回る。10月だけで延べ7回。「現役世代が残る今こそ伝えなければ」との使命感に突き動かされている。

■学ぶ場の一つ

 学ぶ場の一つが資料館の企画展。孫を連れた大火経験者の祖父など、初日から市民が訪れる。店と住居、家財道具を全て失いながら中町に店を再建した贈答果物・野菜店「にしむら」の西村紀美子さん(68)も「当時は映像なんて目を向けられなかったけど、私たちの街を焼いた火事がどんなものだったのか、今は見てみたい気がする」と話した。

 大火以降、同消防本部は消防車の警鐘を鳴らしながらの防火広報を本署と9分署ごとに毎日実施。風が強くなった時も行う。しかし年月が経過して住民の意識と生活が多様化。「警鐘がうるさい」「うちの近くを通らないで」という声があるのが現実だ。

 「酒田は何度も大火に襲われたこと、風が強いこと、みんなで猛火と戦い、よみがえってきたことを忘れないでほしい」。土井消防長は力を込める。大火の教訓を後世にまで残す。実現できるかは、中継役である今の市民の行動にかかっている。

(この企画は酒田支社・坂本由美子が担当しました)

【メモ】

 市立資料館の大火40年企画展は来年1月29日まで。11月は無休、12月以降月曜休館。入館料一般100円、小学生~大学生50円。土日は小中学生無料。

[PR]
[PR]