東日本大震災

震災1年-それぞれの思い(1) 遺品に父への感謝つづったメモ

2012年03月06日
 昨年3月11日に発生した東日本大震災。未曽有の苦難からもうすぐ1年を迎えるが、復興への道のりは険しく遠い。息子を失った父母、仮設住宅で暮らす女性、本県ボランティアの支援で再起を期す旅館の主人…。震災1年を機に、さまざまな人を訪ね「3・11」への思いを聞く。
(仙台支社・松田直樹)

 突然この世を去った息子の遺品から小さなメモ帳が見つかった。「心にのこるありがとうカード」と印刷された紙には父への思いがしたためられていた。

啓樹さんが生前、父に宛てたメモ。遺品整理中に見つかった
啓樹さんが生前、父に宛てたメモ。遺品整理中に見つかった
 「おやじへ 今まで育ててくれて本当にありがとう。これからは俺が楽できるようにしてやるからもう少しだけ頑張って生」

■募る後悔の念
 書いたのは高沢啓樹さん(享年32歳)。日付は東日本大震災で犠牲になる1カ月ほど前の2月1日だ。「なんで『生』で終わってるのかな。『生きて』と続けようとしたんだろうけど…。何よりも大事な宝物だ」。父・安志さん(62)=仙台市宮城野区=は目にうっすらと涙を浮かべて、1年前を振り返る。

 啓樹さんは生前、本県や宮城県などでパチンコ店と飲食店を営む「ベガスベガス」に勤務。鶴岡や酒田を経て、名取市の「名取店」で働いていた。夕方からの勤務だったが、地震発生を受け、自ら進んで早めに出勤。帰る手段を失った顧客を自分の車で送り届けてあげようと、海岸近くの閖上(ゆりあげ)方面に向かった際、津波に襲われた。

 「時間を守れ。約束を守れ。うそをつくな。小さなころから、この三つを厳しく教えてきた。約束を守らなかったときには玄関先に座らせて考えさせた」。もう少し優しくしていれば…。息子の死に直面し、後悔の念が心を埋めた。

 母・啓子さん(63)にとって一番楽しかった思い出は、家族4人で毎年、年末年始を過ごした瀬見温泉だ。「2泊3日の小旅行。啓樹が熱を出して行くかどうか迷った時があったんですが、本人がどうしても行くって…。車にいっぱいお菓子を積んでね」

 3・11以降、啓子さんの枕元には、啓樹さんが2度、夢に出てきた。「冷蔵庫の隣に立っていた。あっと思ったらすぐ消えちゃった」。まだ、どこかできっと元気に生きている。そう思わないとやっていけない。だから「夢で会いたいとは思わない」

津波で犠牲になった高沢啓樹さんの遺影を前に、思いを語る安志さん(中央)啓子さん夫妻。啓子さんの後ろにあるのは、啓樹さんが当時着ていたワイシャツ=仙台市宮城野区
津波で犠牲になった高沢啓樹さんの遺影を前に、思いを語る安志さん(中央)啓子さん夫妻。啓子さんの後ろにあるのは、啓樹さんが当時着ていたワイシャツ=仙台市宮城野区
 啓樹さんが発見された時に着ていたワイシャツとズボンとジャンパーはクリーニングに出した。「泥まみれであちこち裂けていたけど、ひょっこり帰ってきたらいつでも着られるように」今も遺影とともに仏間に飾ってある。

 勤務先の研修で書いた作文には両親への感謝の気持ちが素直に記されていた。「今まで自分は親がまだ生きているから…といった感じで両親の行為は全て当然の事だと思っていました。そんな自分のこれまでの行動や姿勢がどれほど愚かであったのかを学ぶ事が出来ました。今後は両親に対する感謝の気持ちを忘れずに仕事に臨み、感謝の心・気持ちを全ての人達に伝えられる人間になれるよう努めていきます」(一部略)

■天国で旅行を
 俺たちの子に生まれて幸せだったのだろうか。厳しすぎただろうか。何度も考えた。「でも、この作文を読んで『育て方は間違っていなかった』『これで良かったんだ』と分かった。最期まで、人のために精いっぱい生きてくれた」

 作文は「今年は必ず両親に旅行をプレゼントします」という言葉で締めくくられていた。啓樹さんは約束を果たせないまま旅立った。しかし、安志さんは「いつか天国からきっとプレゼントしてくれる。それを楽しみに待っている」。そしてこう加えた。「自分たちが亡くなったら天国で一緒に旅行したいな」
東日本大震災 記事一覧
[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] [12] [13] [14] [15] [16] [17] [18] [19] [20] [21] [22] [23] [24] [25] [26] [27] [28] [29] [30] [31] [32] [33] [34] [35] [36] [37] [38] [39] [40] [41] [42] [43] [44] [45] 
文字サイズ変更
  • 小
  • 中
  • 大

県内8市発行メールマガジン登録無料

ふるさとだより

毎週木、金曜日配信中!

ニュース特集

スポーツ

教育・子育て

おでかけ

暮らし情報

twitter発信中

山形新聞からお知らせ

  1. 【2019年8大事業】
     山形新聞、山形放送の2019年の8大事業が決まりました。詳しくは、こちらから
  2. 【やましん公式FB】
     山形新聞社は、インターネット交流サイト「フェイスブック(FB)」の公式ページを新設しました。
     公式ページでは山形新聞のニュースのほか、本社からのお知らせなどを中心に紹介します。
     アドレスは、こちらから
  3. 【やましんe聞で動画視聴】
     読者限定の電子版「やましんe聞」で動画を閲覧できる新サービスを始めました。詳しくは、こちらから。
  4. ◆中学、高校の各種スポーツ大会の記録を紹介。検索機能も備えています。アクセス方法はこちら
  5. ◆探したい記事がきっと見つかる、山形新聞記事データベース。他社DB横断検索が便利な日経テレコンジー・サーチファクティバ
  6. ◆県外でも今日の朝刊が朝一で読める「お届け電子版
  7. ◆ニュース速報、高校野球、モンテ情報… 身近な情報を携帯で確認「モバイルやましん
  8. ◆故郷の話題をメールでお届け、ふるさとメール会員募集(登録無料)
山形新聞から
販売から