東日本大震災

震災1年-それぞれの思い(6) 「山形の支援」で旅館再建へ

2012年03月11日
「山形の支援がなければ旅館再建は不可能だった」と語る三浦啓さん(左)麻由美さん夫妻と、本田光太郎さん=宮城県石巻市・美浦旅館
「山形の支援がなければ旅館再建は不可能だった」と語る三浦啓さん(左)麻由美さん夫妻と、本田光太郎さん=宮城県石巻市・美浦旅館
 海水がまだ引かない昨年3月12日。浸水域を泳いで乗り越え、経営する旅館の被害状況を確認しに行く途中だった。宮城県石巻市の三浦啓さん(55)は信じられない光景を目にする。

 巨大な船が横倒しになっていた。トレーラーはひっくり返り、運転席には無言のドライバー。いたるところに絶命した人が転がっている。「どこかで親が待っているだろうから」と、息絶えた男の子を優しく抱っこしながら、無情の街を夢中で歩いた。あれから1年。

■一生分の人に
 地獄というものがもし本当にあるのなら、それは疑いようもなくあの場所だった。それでもいま、4月末の再オープンを目指し、前を向く。「この1年間で一生分の人と出会えた。しかも善意の人ばかり。山形の支援がなければ旅館の再建は不可能だった」。三浦さんは振り返る。

 3月11日午後2時46分。宿泊客の夕食を準備している時、強く長い揺れが体を襲った。客室のテレビが台から落ち、玄関のガラスが割れたものの、建物自体の損傷はほとんどなかった。防災無線が「津波が来ます」「逃げてください」と繰り返したが、「1年前のチリ地震では津波が来ると言って来なかった。今回も大丈夫かなと思った」。

 しかし、「父さん、逃げよう」という高校1年の息子の言葉で避難を決断。車に乗り込み、内陸側に向かったが、大渋滞に巻き込まれる。「いま何時だ?」。家族に尋ねると3時50分。1時間たっても来ないならもう大丈夫だろう。旅館に戻ろうと思ったその時だ。歩道橋に大勢の人がものすごい勢いで上ってくるのが目に留まった。驚いて海側に視線を送ると、スーパーの駐車場から大量の車が次々に押し流されてくるのが見えた。黒い波は眼前の運河で止まり、かろうじて命をつないだ。

■オーラ見えた
 避難所を出て6月から、旅館の2階にテントを張って住み始めたが「最初の1週間は破れかぶれで、ふて寝していた」。何とか自力で再建しようと思い始めた時、山形ボランティア隊代表の本田光太郎さん(29)がひょっこり現れた。「『こんにちは』ってね。後光が差すというか、オーラが見えた」。妻・麻由美さん(48)は話す。

 それ以降、山形ボランティア隊による支援活動が始まった。毎週末バスで訪れ、がれきの撤去や床掃除に打ち込んだ。「多いときは30人も手伝ってくれた。そのうち、壁のクロスや廊下の板張りまでやってくれて。最初はうまくできなかったけれど、だんだんプロ並みになった」と三浦さん。「山形のボランティアは明るいし、みんな人がいい。年齢層も幅広いし素晴らしい」

 麻由美さんは「何度も心が折れそうになったけど、もう少し待つと山形の人たちが来てくれると思って頑張れた。本当に支えになった」と当時の心境を語る。

 三浦さんは昨年11月からボランティア活動にも取り組んでいる。「先日は南三陸町でワカメ小屋を作ってきた」。支援チームの名前は「Step By Step」(一歩ずつ)。山形市の川尻宏一さん(31)が代表を務める団体だ。

 自らの旅館再建もまだ途上なのになぜ? そう問い掛けると「人に助けられるだけでなく、人を助けて、初めて震災とは何だったのか本当の姿が分かると思った。10年は続けたい」。充実した笑顔が帰ってきた。
(仙台支社・松田直樹)
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