その先へ

[1]人工クモ糸量産技術開発 スパイバー(鶴岡)

2015年01月04日
紡ぎ出される人工クモ糸「QMONOS」(スパイバー提供) 
紡ぎ出される人工クモ糸「QMONOS」(スパイバー提供) 
 「最強の生物は何か」。友人と酒席で交わした議論が、全てのきっかけだった。関山和秀代表執行役(32)率いるバイオベンチャー企業「スパイバー」は、強くて軽く、弾力性がある人工クモ糸繊維「QMONOS(クモノス)」の量産技術を世界で初めて開発した。この驚異の新素材を車体や医療器具に応用し、人類が抱える多種多様な課題解決に挑む。

 関山代表は東京都内で中小企業を経営する家庭で育った。起業への熱意を自らの胸の中に明確に感じたのはITブームと言われた高校時代だった。「世の中に役立てば発展する」「社会のニーズが大きく、物事の本質に迫るほど大事業になる」。こんな将来への思いを同級生の水谷英也・現執行役とよく話した。

 文系の関山代表をバイオテクノロジーの分野に導いたのは、慶応大先端生命科学研究所(先端研、鶴岡市)の冨田勝所長だった。出会いは高校3年だった2000年。鶴岡に研究所ができることを同大の学部説明会で冨田所長に聞いた。チャンスと信じて飛び込んだ。だが研究テーマを考えては首をひねる日々が数年続いた。

■「最強の生物」
 研究室の合宿の夜、大学の後輩の菅原潤一・現執行役と酒を飲んだ時だった。「最強の生物」の話題をつまみにした。「クモだ」。2人の答えは同じだった。「この世で最も強い糸を出すクモは事業になる」。菅原執行役の一声で会社名まで決まった。「スパイダー(クモ)とファイバー(繊維)でスパイバー、いいね」

 明け方、関山代表は図書館に駆けた。クモについての文献をあさり、「スパイバープロジェクト」を練った。研究テーマを競う大学主催のアワードで「ライバルはNASA(米航空宇宙局)」と言い放つ。冗談とみたギャラリーに笑われた。だが審査員からは特別賞で評価された。「これがうれしく、本格的に力を注いだ」。研究は加速し、07年9月に水谷、菅原の両執行役とともに慶大先端研発のベンチャー企業としてスパイバーを設立した。

 約5年後、人工クモ糸の鍵となる▽微生物による生産▽糸を紡ぐための溶媒液の開発―で障壁を突破。石油を用いず、クモ糸から遺伝子を取り出してバクテリアに組み込み、糸を作り出すことに成功。特許を取得した。13年5月には東京・六本木で記者会見を開き、世界初の量産技術開発を発表、QMONOSで作った青いドレスを展示し、革新的な技術をアピールした。

人工クモ糸のサンプルなどが並ぶスパイバーのギャラリー=鶴岡市先端研究産業支援センター
人工クモ糸のサンプルなどが並ぶスパイバーのギャラリー=鶴岡市先端研究産業支援センター
■加速する研究
 現在、ラボでは新素材と製品を試作してはデータを蓄積している。15年は新たに第2試作研究棟を稼働させ、インド国籍のエンジニアらの人材も加わって研究のスピードアップを図る。

 ターゲットは車のほか、衣服、家具、医療機器…と枚挙にいとまがない。「どういうメーカーと組むかは未定だが、素材の特性とコストを考えると、どこにでも何にでも使える。大事なのはアプリケーション(応用品)ではなく素材にメリットがあること」。イメージするのは検索サイト「グーグル」や交流サイト「フェイスブック」。素材による「プラットホーム(基盤)」構築を目指す。

 次世代の商品をいつごろ目に出来るのか。関山代表は「試作品は今年か来年に公表できそうだ。数年内には製品化できるかもしれない」と答えた。ただ、彼らの最大の目標は商品化ではない。ビジョンとして「パラダイムシフト(価値の転換)へのアプローチ」を常に掲げる。「開発したものをグローバルで通用させ、世の中を良くしたい。現代社会の疑問あるシステムを変えることに挑戦する。地域活性化もその一つだ」。関山代表は未来図を熱弁し続けた。
(ものづくり取材班)

【人工クモ糸繊維】強度は鉄鋼の4倍、伸縮性はナイロンを上回り、耐熱性は300度超。炭素繊維にはない伸縮性、合成ゴムにはない硬さなど強さと伸びという相反する特長を兼ね備える。
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