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[2]航空機産業に本格参入 スガサワ(寒河江市)

2015/1/11 13:01
航空機の油圧装置に使われる部品の試作品

 ステンレス製の円筒の中に一定の速度でゆっくりと軸が沈み込んでいく。円筒と軸の隙間が広ければ、すとんと落ちる。その隙間は千分の1ミリレベルだ。

 油圧機器やディーゼルエンジン部品の製造を主力とするスガサワ(寒河江市)は、2012年に航空機産業に本格参入した。格安航空会社の増加などを背景に、世界規模で拡大が見込まれる市場でのシェアアップに挑んでいる。

 冒頭の円筒と軸のような精密部品の製造を得意とする。千分の1ミリ単位でサイズを制御する高い加工技術で国内外のメーカーと取引し、実績を上げてきた。

 「良い製品を高く買ってもらえるようにはならないのか。この考えが原点」。長谷川俊雄社長(66)は、20年ほど前を回想する。当時は自動車産業をはじめ、ものづくり分野では「良い物を安く」という考えが主流だった。これに対する疑問が出発点だった。

 単純にコストを削減するなら人件費の安い海外に進出する手はある。ただ、文化の違いなどさまざまな課題に対応しなければならない。「同じように努力するなら、日本国内にとどまったまま勝負できる製品はないかと考えた」(長谷川社長)。目を付けたのが、それまで培った技術が生かせる航空機産業だった。

 同じころ、取引先と提携する米国の油圧機器メーカーが航空機分野も手掛けていることを知った。長谷川社長は米国に飛び、営業を試みた。しかし、答えは「ノー」。門前払いだった。

 断られた理由は、航空宇宙産業の品質管理に関する国際規格の認証を取得していないことだった。徒労に終わったが、思いは強くなった。「認証を取得すれば、“塀”の中に入れる。高い塀であればあるほど、中に入れば楽になるはずだ」。

精密機械加工を手掛けるスガサワの工場。千分の1ミリ単位の加工技術や高い品質管理体制で航空機産業に参入している=寒河江市

■国際認証得る

 それ以降、厳しいトレーサビリティー(生産履歴)が求められる品質管理などの国際規格の認証取得に取り組んだ。00年のISO9002を皮切りに、より厳しい自動車産業のQS9000などをクリア。11年にはついに航空宇宙産業で必須とされるAS9100を手にした。

 長谷川社長の長男・俊明管理室長(38)は「階段を上るように徐々に品質管理体制を高めた。AS9100の認証を取得する際には結果的にそれほど苦労はしなかった」と振り返る。

 認証取得に合わせ、航空機関連の企業にこれまで培ってきた技術をアピール。12年9月に重工業大手IHI(東京都)からジェットエンジンのベアリングなどの加工を受注。13年10月には島津製作所(京都市)とフラップ(高揚力装置)などを制御する油圧機器部品の取引を始めた。そして14年11月、精密制御機器の世界的メーカー・ムーグ(米国)と自動操縦装置の部品製造について仮契約を結び、テスト加工を進めている。

 ムーグとの取引は機械加工を担当するだけでなく、材料調達のほか、表面処理、熱処理、非破壊検査の各協力メーカーに対し、それぞれの工程を外注し管理する窓口企業の役割も担う。

■連携を模索へ

 「いわゆるワンストップショッピングが、航空機産業でも求められている」と長谷川社長。協力メーカーを拡大すれば、それだけ受注できる部品も増える可能性がある。「これからのものづくりは技術力を高めるだけでは足りない。企業同士のネットワークも必要になる」。県内企業との連携も模索している。

 航空機産業に本格参入して2年余り。現在の売上高は全体の1%にも満たない。ただ、この産業の大きなメリットは、安全面などから生産工程が変わることは少なく、息の長い取引が続けられること。長谷川管理室長は「着実に実績を重ね、取引を拡大していきたい」と力を込める。高いレベルでの“安定飛行”に向け、挑戦は続く。

(ものづくり取材班)

【スガサワ】 菅沢製機(横浜市)の大江町工場を分離し、1981(昭和56)年に設立。83年には寒河江市中央工業団地に寒河江工場を新設した。88年に同工場に加工部門を集結し、本社工場とした。従業員は64人。菅沢製機を含めたグループ全体の売上高は2014年で10億2680万円。

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