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[4]超小型カメラ海外展開 ワテック(鶴岡)

2015/2/1 11:31
縦横約3センチ、重量35グラムの超小型軽量フルハイビジョン監視カメラ(右)

 1988(昭和63)年のソウル五輪開幕式。パラシュートで空から舞い降りてきた出演者が上空から撮影した風景が世界に配信された。出演者のヘルメットに装着されていたのは、小型カメラ専門メーカーのワテック(鶴岡市、五十嵐重人社長)製の超小型CCDカメラ。87年の創業からわずか2年目、世界のマーケットへ大きな一歩を踏み出した瞬間だ。

 世界で初めて汎用(はんよう)性に優れた超小型監視カメラの量産に成功。現在も製品の大半は防犯・保安用だが、近年は天体観測や医療分野などにも採用されている。

 生産量の約8割は海外向け。出荷先は60カ国以上に及ぶ。バッキンガム宮殿、米航空宇宙局(NASA)米連邦捜査局(FBI)米中央情報局(CIA)ロサンゼルス市警、ルーブル美術館、国立天文台…。その納入実績が信頼性の高さを物語る。「世界水泳選手権や大相撲の土俵真上のカメラにも採用されている」と結城芳光取締役(62)は教えてくれた。

ワテックの生産現場では、1人の社員が一つの製品の組み立てから梱包までを責任を持って担当する=東根市

■失業状態から

 創業者は五十嵐重美最高顧問(78)。もともと東京都大田区にあった中堅ストロボメーカーの専務を務めていたが、オーナーが病気を機に突然廃業を宣言。失業状態になる中、部下のエンジニア5人を引き連れて設立したのがワテックだ。

 フラッシュ内蔵カメラの出現でストロボ業界も大きな転機を迎えていた時代。五十嵐最高顧問は以前から開発を進めていたCCDカメラに将来を託した。ただ、すでに市場は国内大手家電メーカーが席巻。ベンチャーが入り込む余地はなかった。そこで注目したのが、まだ大手の目が向いていなかった「小型化」と「海外市場」だった。

 CCDカメラを小型化するには、レンズがとらえた光を電気信号に変える電子回路をどうやって小さくするかが課題となる。電子回路の専門家だった五十嵐最高顧問は独自の回路設計で小型化に成功。弱い画像信号を増幅させることで暗い中でも鮮明に撮影できる特殊な回路も開発した。

 従来品に比べ大きさは4分の1、重さは10分の1、価格も20分の1まで抑え、業界に衝撃を与えた。技術はその後も進化を続け、現在では縦横3センチほどの超小型でありながら、線香1本程度の明かりがあれば撮影を可能にするレベルだ。

超小型地球観測衛星「雷神2」が、上空約700キロからワテック製のカメラで撮影した地表の画像(ワテック提供)

 海外市場を中心とした販売戦略も当たった。欧米はセキュリティーへの意識が高く、監視カメラの需要も多い。品質、性能、価格で優れていれば採用される実力主義の市場でもある。五十嵐最高顧問自ら展示会に何度も出向き商品を説明。「こんなちっぽけなカメラで、なぜこんなに鮮明な画像が出せるのか」と各国関係者らをうならせた。

■宇宙でも活躍

 他メーカーとは一線を画した質の高さに天文関係者も注目。観測用にとどまらず宇宙にも飛び出した。東北大と北海道大が共同開発し、昨年5月に種子島宇宙センターから打ち上げられた超小型地球観測衛星「雷神2」。ワテック製のカメラが搭載されている。昨年12月に関係者から送られてきたメールには、高度約700キロから新潟県南部の地表を撮影した鮮明な画像と、他社と同じ素子を使っていながら性能が格段によいことへの驚きの声が添えられていた。

 毎年、市場に投入する製品は3~5機種。もちろん全てが「メード・イン・山形」だ。唯一の生産拠点である東根市の工場では、流れ作業のラインは一つもない。1人の社員が組み立てから梱包(こんぽう)までを一貫して行う。「多品種生産に迅速に対応できるほか、自分で作った完成品が世界に行くことで責任感と誇りが生まれる」と結城取締役。ブランドを支えているのは、山形県民のものづくりへの情熱だ。

(ものづくり取材班)

【ワテック】 1987(昭和62)年、川崎市で創業。90年に東根市に山形工場を開設、96年に本社を創業者の故郷である鶴岡市に移した。資本金5850万円。従業員数は関連会社を含め50人。米国、台湾、中国に営業所を持つ。会社名は、技術者同士のコミュニケーションが大切との思いを込め、“和(輪)”と“テクノロジー”を組み合わせた。

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