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[6]「冷間鍛造」で自動車部品生産 片桐製作所(上山)

2015/2/15 12:33
各種機械が整然と並ぶ工場。片桐製作所の技が日本の自動車産業を下支えしている=上山市

 自動車1台当たりの部品点数は一般的なガソリンエンジン搭載車で約3万。高度な技術力の集合体ともいえる。1966(昭和41)年に「冷間鍛造」と呼ばれる技術を東北で初めて導入した片桐製作所(上山市)は、蓄積したノウハウで高品質の部品生産を担い、県内自動車関連企業の草分けとして存在感を放ち続けている。

■強いこだわり

 「自動車は人が命を預ける乗り物。部品は値段の安さや生産能力だけで決まるものではない。品質とそれを的確に管理する体制が求められる」。片桐鉄哉社長(59)は品質へのこだわりを強調した。

冷間鍛造の技術で加工された自動車部品(片桐製作所提供)

 扱うのは、自動車用ディスクブレーキのピストンやインジェクターと呼ばれる燃料噴射装置、オートマチック車のトランスミッション(変速機)向け油圧制御パーツなど多岐にわたる。近年、装着率が上がっている横滑り防止装置にも技術を投入。装置に組み込む直径3.8ミリ、長さ5ミリの円筒形の部品を製造する。この小さな部品は真ん中に0.6ミリの穴が開いており、装置内部で必要に応じてブレーキ液の流れを制御、滑りやすい路面などで車体姿勢を自動的に安定させてくれる。

 「冷間鍛造」とは何か。熱を加えず、プレス機で金型を強く押し当てるなどして成形する手法だ。金属の性質が変化せず、複雑な形状を精密に加工できる。削りかすが出ないため環境にも優しい。生産スピードは速く、コストダウンにもつながる。高い信頼性と加工精度が要求される自動車部品製造には、この技術が合致する。

■革新の気質

 品質を追求する姿勢は、金型や工具にも表れている。自社で作る点が大きな特徴の一つだ。「使うのは自分たち。商社から購入した製品を試し、使いづらければ自分たちで作ってしまえという発想。その方がいいものを作ることができる」(片桐社長)。こうした革新の気質が素材や金型、工具の開発、販売につながっている。自社ブランド「STRAX(シュトラックス)」で展開している超砥粒ホイールがその代表例。研削盤などの工作機械に取り付けて金属を磨いたり、削ったりする工具だ。改良を重ね、新製品を次々に市場に出している。

 片桐社長がこだわるもう一つ、「品質の的確な管理」は社員による日々の努力が鍵を握る。品質のISO9001などの国際認証取得はもちろん、全社員が参加する小グループ活動として使用機械の清掃や分解、組み立てを行い、構造や操作法を再確認する取り組みを続ける。社員間のコミュニケーションを高めるとともに、機械を常に良好な状態に保つことができるという。トレーサビリティー(生産履歴)の厳格化を含め、リスク管理には余念がない。

 現在、自動車部品関連が売り上げ全体の9割を占める。一方で自動車は動力源だけを見ても化石燃料から電気、水素と技術革新が進む。将来的にはエンジン以外の動力で走る車が一般的となる可能性も見えてきた。そのため、技術の優位性をアピールしながら自動車部品の需要開拓に努める一方、機械設備などの開閉時に衝撃を吸収するショックアブソーバーや、ガス給湯器の安全装置など多分野への波及も見据えている。

 戦後の混乱期に旋盤2台で事業を始めた。ミシンや音響の部品、そして自動車部品と、イノベーションの波に柔軟に対応してきた。安定した品質と高い生産性を同時に実現する高度な量産技術を武器に、今後も進化を続けていく。

(ものづくり取材班)

【片桐製作所】 1947(昭和22)年、上山の十日町で創業。ミシン部品の製造を担う。66(昭和41)年に冷間鍛造技術を東北で初めて導入。67年に自動車部品の生産を開始し、79年には本社を上山市金谷に移転した。2007年、山形市蔵王松ケ丘2丁目に山形工場を新設。従業員240人。14年の売上高は約39億9千万円。

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