その先へ

[25]軟質のスギから家具製造 天童木工(天童)

2015年07月12日
なじみのある木目が美しいスギ材の家具
なじみのある木目が美しいスギ材の家具
 遠くから眺める深緑の山々は美しいが、足を踏み入れればスギの森は荒廃している。日本固有種のスギは学名「クリプトメリア・ジャポニカ(日本の隠れた財産)」。その価値は、美しい名前ほど評価されてはいない。

 スギの悲鳴に耳を傾け、新たな需要を生み出そうと挑戦する家具メーカーがある。高級家具で知られる天童木工(天童市、加藤昌宏社長)。軟質のため家具には使われてこなかったスギで、真っすぐな木目が心を洗うような製品を完成させた。全国からの注文に製造が追い付かない状態だ。

 きっかけは2011年の東日本大震災。物流が混乱し、約9割を輸入に頼る硬質の広葉樹材が入らず、価格も高騰した。「国内にはこんなに針葉樹が余っているのに」。西塚直臣常務製造本部長(62)の言葉には、自家で明治時代から受け継ぐ約50ヘクタールのスギ林が荒廃している実感も込められていた。

 ただ、鉛筆の書き跡が残るような針葉樹の板でテーブルなどが作れないのは常識だった。

全国各地から届く丸太を前に語る西塚直臣常務製造本部長=天童市・天童木工
全国各地から届く丸太を前に語る西塚直臣常務製造本部長=天童市・天童木工
■硬化への試み
 軟質のスギを硬くするために用いたのは、ロールで板を加圧して繊維の空洞をつぶす圧密加工。業界既存の技術だが、厚さ5センチの板を3センチまで圧縮しても中心が軟らかいままで実用化はされてこなかった。ここで生きたのが同社の魂でもある「成形合板」。厚さ数ミリの板を幾層にも重ね、自在に成形する技術。スギ板を2~3ミリまで薄くし、2度のロール加圧で素材の完全硬化を試みた。

 しかし、金属製のロールは加工時に約200度まで熱せられると膨張し、求められる0.5~1ミリ単位の加工精度が出せなかった。三菱重工と膨張率も計算した専用機を開発した。また、厚さ2.5ミリののこぎりで薄板を切り出す従来方式では、木材の半分が木くずとして無駄になるため、材料を巨大なかんなでスライスする装置も入れた。

 残る課題は未経験のスギ材を使った成形合板による家具作り。満足行く素材を仕上げていた西塚常務は思った。「後は現場に丸投げしちゃおう」。世界的な名品「バタフライ・スツール」を手掛ける職人たちへの絶対的な信頼があった。硬さを追求しながら、木地と木目の風合いが柔らかな家具は、県内外の発表会で好評を得た。輸入材より仕入れ値が安く、椅子は3万円台から、テーブルは5万円台からに抑えた。

■山守る仕組み
 スギの活用は建築分野でも奨励されているが、乾燥などの中間工程がネックで広がりに欠ける。薄板を使う圧密加工は乾燥が短時間で済む利点もある。

 同社の敷地には全国各地の丸太が所狭しと積み上げられている。スギ林の荒廃は共通課題で、地元材の活用を目指す自治体から家具や調度品の発注が舞い込む。24時間の稼働でも生産は追い付かず、今年中に装置を大幅に増強する。費用の約2億3千万円のうち半額は林野庁の補助。林野庁が家具メーカーに助成するのは初めてだ。

 スギの活用は家具にとどまらず、新たな挑戦も始まった。圧縮した板が復元する力を利用して、難燃剤を浸透させる処理技術の開発だ。難燃木材ができれば、建物の壁など建材としての用途が広がる。今夏には国の燃焼試験に臨む。

 丸太の素材から完成品まで仕上げる家具メーカーはほとんどない。「業容を山林の川上へ、販売の川下へ広げながら、山を守る仕組みを確立したい」と西塚常務は語る。「隠れた財産」に光が当たることを願って。(ものづくり取材班)

【天童木工】 1940(昭和15)年に創設。家具、インテリアの設計製造、国産高級車の木製ステアリングなども手掛ける。売上高約38億円のうち、スギの圧密家具は約2億円。従業員323人。
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