挑む、山形創生

第1部「働くということ」 (6) バブル期以来の人手不足

2016年01月08日
例年になく暖かい正月を迎えた県内。若者の県内定着に地方は強い覚悟が求められている=1月1日、山形市・県護国神社
例年になく暖かい正月を迎えた県内。若者の県内定着に地方は強い覚悟が求められている=1月1日、山形市・県護国神社
 今の若者にはちょっと想像できないかもしれない。有効求人倍率1.68倍。1企業当たり8.3人の人手不足。バブル経済が絶頂期を迎えた1989年。県内も労働市場が沸騰し山形新聞の紙上には「仁義なき“人盗(と)り合戦”」の見出しが躍った。

■両親に請われ
 その2年前、鶴岡市出身の鈴木仁さん(53)=仮名=は県内の金融機関に就職した。憧れから東京の大学に進学、入学してすぐに新宿のはやりのディスコに行った。当時は地元に帰るつもりは全くなかった。4年になると、アルバイト先の大手ホテルから早々に内定が出た。ほかにも内定をいくつかもらい、多くの内定書を見せびらかす友人もいた。

 両親から涙ながらに地元での就職を請われ、「ステータスが高い」という理由で金融機関を選び、Uターン。仕事はきつかったが、営業成績上位者には海外旅行の褒美があった。

 斎藤真一さん(44)=仮名=は90年に工業高校を卒業し、山形市内の建設会社に入社した。勤め先は「県内外より取り見取り。たくさんの中から選択できた」。大型公共工事が多く、入社数年後にはダム工事に携わった。規模が大きすぎて、何かを造っている実感が湧かなかったが、完成後は「地図に残る仕事ができた」と達成感に浸った。

 これは自分が造った道だと息子に自慢したこともあった。「『ふーん』と流されたけどね」。照れ隠しの笑みを浮かべた。

 89年12月29日に日経平均株価は3万8915円の史上最高値を付けたが、日本経済はその後、徐々に下り坂に向かい始める。県内では山形新幹線が開業し、べにばな国体が開催された92年ごろまでバブルの名残が感じられたが、その後は坂道を転げ落ちるように景気が悪化した。

 主に融資畑を歩んだ鈴木さんは担当顧客の倒産を何度も目にした。何の連絡もなく、張り紙1枚で融資先の倒産を知り、ぼうぜんとしてわれを失った。

 斎藤さんの勤める会社も公共事業の減少のあおりで期末手当がなくなった。堅実路線の会社は民需を開拓、大手ゼネコンのようにバブル期に新卒採用を増やしたり、本業以外に手を出したりしていなかったため雇用は守られた。

■子どもの就職
 バブル期の入社組も既に40~50代。「失われた20年」の荒波をくぐり抜け、子どもが社会に出る年代を迎えている。

 鈴木さんはもはや都会への憧れは感じないし、子育て環境の良さは山形が抜群だと感じているが、子どもたちの就職に関しては複雑な思いがある。「どうしても残りたい理由があればいいが、無理にとは思わない。子どもたちの幸せを思うと仕方ない」。勤め口への不安が拭い切れない。

 斎藤さんの息子は昨春、高校を卒業し、県内企業に入社した。地元で働いてくれることに素直に喜びを感じている。

 バブル期と現在。主要因が好景気と人口減少という点で二つの時代の人手不足は性格が異なるが、再び地方が都市の雇用吸収力の前に立ちすくむようなことがあってはならない。今度は若者流出が地方消滅に直結する。この国の在り方を地方が主導する覚悟が求められている。
(「挑む 山形創生」取材班)
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