挑む、山形創生

第4部鍵握る中小企業(5) 企業城下町からの脱却・長井

2016年05月04日
「企業城下町の崩壊」で変革を迫られた長井市。技術力を生かしたものづくりに活路を見いだす
「企業城下町の崩壊」で変革を迫られた長井市。技術力を生かしたものづくりに活路を見いだす
 街の産業構造が一変した。1995年、長井市の産業の中心を担っていたマルコン電子が株式を他企業に売却した。円高の影響で製造業の生産拠点が海外にシフトし、経営難に陥っていた。同市の製造業にとって、東芝関連企業の同社はブランドであり、地域に仕事を供給する窓口であり、雇用と職業訓練の場だった。同社を頂点とする「東芝の企業城下町」は変革と挑戦を迫られた。

■営業経験なく
 コンデンサー(蓄電器)製造などを行っていた同社は東京芝浦電気(現東芝)の長井工場が前身。製糸業に代わる産業の核として、戦中の42年に市が誘致した。90年前後の最盛期に同社の製造品出荷額は市全体の4分の1(約270億円)を占め、製造業従業者数の5分の1(約1200人)を担った。

 先端技術を抱え、事業規模も大きい同社は街をけん引した。経験を積んだ従業員が50年代ごろから独立。部品や組み立てなどの会社を立ち上げ、地域の中で技術集積が進んだ。「部品作りから製品の完成までを地元で完結できるバランスの取れた産業構造が出来上がった」と同市産業活力推進課。同社は長井の街も、人も育てていた。

 同社の身売りは企業城下町の崩壊を意味した。同社からの仕事に依存していたため、地元企業の多くは営業経験がなかった。東芝のブランド力も失い、状況は一気に悪化した。

 「企業のグローバル展開を前に、行政は無力だった」と同課の横山照康課長。別の中心企業を誘致したくても、一朝一夕で実現するものではない。揺るがないのは、地元に培われた技術力。ものづくりの拠点が海外に移っていく時代の中で、いかにして長井を売り込むか。「長井」をブランド化するためのイメージ戦略が必要だった。

 追い打ちを掛けるように地元製造業者を驚かせる知らせが舞い込んだ。長井工業高の存続問題。志願者の減少による慢性的な定員割れと校舎の老朽化が原因だった。県は同高を含む県内工業高の統廃合を検討していた。誰もが街の将来に悲観せざるを得なかった。

■強み生かして
 この危機に立ち上がったのが同高OBで吉田製作所(長井市)創業者の吉田功会長(75)だった。2003年に吉田会長らを中心に西置賜地域の製造業27社で「西置賜工業会(現西置賜産業会)」を発足。1社に依存してきたこれまでの下請け経営を見直し、各社の強みを生かした自社製品の開発や独自技術の取得を進めた。

 目指したのは「大企業にも価格交渉できる仕事」と吉田会長。同社が得意とする省力化機械をはじめ、自動機械メーカーが集積する長井の製造業の強みを生かし、同高で競技用自立走行型ロボット「マイクロマウス」の研究開発を展開。将来への危機感を共有する企業、高校間で連携が強まり、ロボット開発を旗印にした産業クラスターが形成された。

 ロボット開発に命運を懸け15年。現在では全国の製造業社の若手社員が集まる交流会や東北唯一の二足歩行ロボットフェスティバルの開催、ものづくりに携わる優秀な人材を顕彰する「ものづくり日本大賞」の受賞など、長井の製造業振興は当初の想像を上回る広がりを見せている。

 「ロマンこそ創造の源」―。同社の社是で、吉田会長が常に心掛けている言葉だ。同社は11年、設計から加工、組み立てまで一貫生産したロボットを初めて独力で製品化。「誰も気付かないところにチャンスはある。今後さらにロボットの需要は高まるだろう」と自信を見せる。

 国内市場の縮小、海外市場の拡大という大きな潮流の中で、大企業の海外シフトはさらに進む。新興国の技術水準は高まっており、「安い土地と労働力は地方の価値ではなくなった」と長井市産業活力推進課。培ってきた技術を成熟させ、活用し、世界に挑む。長井の技術が詰まったロボットを足掛かりに、着実に活路を切り開いている。
(「挑む 山形創生」取材班)
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