挑む、山形創生

第8部海に生きる(3) 離島に寄り添い(上)

2016年09月28日
20~30代の若者が営む「しまかへ」で客と談笑する渡部陽子さん(中央)=酒田市飛島
20~30代の若者が営む「しまかへ」で客と談笑する渡部陽子さん(中央)=酒田市飛島
 「何もない場所」。古里である田舎を指して、こう説明する人は少なくない。謙遜しているのか、それとも本当か。「島には働く場所がない。早く離れて就職しなさい」。子を思う親の言葉を疑わなかった島の子どもは親元を離れて進学、大学を経て就職したが縁あって古里の島に舞い戻った。

 軸足置く決意
 酒田沖の離島・飛島。周囲約10キロの小さな島に約200人が暮らす。島民全体の高齢化率は7割に迫る。島の玄関口である定期船発着所の近くに20~30代の若者が営む「しまかへ」がある。店長を務める渡部陽子さん(31)は飛島出身で漁師の家に育った。「漁業は安定しないから島を離れて就職しなさい、と言われて育った。島で働くという選択肢はなかった」と振り返る。それでも胸の奥にしまい込んだ思いがあった。「島で働けたらいいなあ」

 酒田市の東北公益文科大を卒業後、島に戻ることなく庄内地方で就職。社会人になって5年ほどが過ぎた。働きながらも「自分に合う仕事を探していた」。飛島で海岸清掃に取り組むNPO法人の活動に携わったことがきっかけで2012年夏、島内に新設したカフェで働くことになった。

 13年春、飛島に軸足を置こうと決意した同世代のUIターン者3人と一緒に「合同会社とびしま」を設立。夏季限定で営業した「しまカフェ」を島民が発音しやすいよう「しまかへ」に改めた。

 モデルケース
 同社は渡部さんら4人が役員となり、現在3人のIターン者を雇用する。渡部さんは店を切り盛りしながら広報部門を担うなど、7人それぞれが個性や得意分野を生かした役割を持つ。役員の1人、松本友哉さん(28)は山口県出身。大阪工業大で学び、若者を農漁村に派遣するNPO法人の「緑のふるさと協力隊」に応募したことがきっかけで、縁もゆかりもない飛島に移住した。デザイン部門を手掛けるほか、「島のなんでも案内人」として観光ガイドなどを引き受ける。島で暮らして4年が過ぎた。

島民挙げた清掃活動に参加後、高齢者と言葉を交わす松本友哉さん(中央)
島民挙げた清掃活動に参加後、高齢者と言葉を交わす松本友哉さん(中央)
 移住間もない頃は言葉が通じず途方に暮れたが、仕事面に目を向ければインターネットの普及でそう不便は感じていない。むしろ「逃げ道がなく、集中できる」と笑う。離島暮らしを他人に勧めるかを尋ねると「物欲がある人は難しいかな」と即答。自分自身を省みて「たくましくなれた気がする。島暮らしの楽しさを広く体感し発信するモデルケースになりたい」と語る。

 渡部さんは「会社を動かすのは試行錯誤の連続。売り上げがある夏場はともかく冬場をしのぐため、加工品の開発など新たな収入源がどうしても必要」と強調する。社員の雇用を守るため赤字分を役員間で穴埋めすることもある。それでも「島に住み、島民の目線で暮らしを立てたい」。起業理念は生産から加工、流通・販売を一手に担う6次産業化だ。その根底にある飛島のフィールドを「0次産業」と位置付ける。飛島の景観や文化を守り、受け継ぐ覚悟の意味を込める。

 海水浴客らでにぎわった夏が過ぎて客足も一段落した「しまかへ」。観光用自転車にまたがった釣り人が渡部さんに近づき声を掛けた。「アジをもらってくれないか」。笑顔で応じた店主はその夜、来店者に新鮮なアジのたたきをサービスした。

(「挑む 山形創生」取材班)
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