県内、特殊詐欺の実態~闇に迫る

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県内、特殊詐欺の実態~闇に迫る

第1部[2]・判決受けた「受け子」の告白(下)

2015/10/23 12:56
受け子の高木孝司(仮名)の話に基づき、トイレで現金を回収役に渡す様子を再現した。高木は相手の顔が見えないように個室に入っている。手を伸ばし、ドアの上から回収役(左)に手渡したという

 「いつも、警察に尾行されているんじゃないかと感じていた」。判決確定まで勾留されていた山形刑務所の面会室で、高木孝司(33)=仮名=が特殊詐欺の現金受け取り役「受け子」の心境を語る。受け子を始めてから山形署に逮捕されるまでの約2週間、街を行き交う人が警察官に見えるほどの恐怖心だった。

 高木は携帯電話を通じて出される指示に従い、東京から朝早くの新幹線で各地方に向かった。逮捕されるまで北陸、関西、都内など6、7カ所に行った。着いた先では駅近くの喫茶店で小説を読みながら、次の指示を待った。

 高木が実際に被害者から現金を受け取ったのは、兵庫県での1回だけ。どんなだましの話で、誰を装っているかも分からないまま、被害者宅に向かった。着いた家のそばで指示役に電話し、指示を仰ぐ。

 「サイトウを名乗れ」。そう言われていたまさにそのとき、高齢の女性が近づいてきた。「サイトウさんですか」。「はい」。相手から紙袋を渡してきた。だます間もないほど、あっけなかった。

 東京に戻った高木はその後、不可解な指示を受ける。「公園のトイレに行け」。これは詐欺グループが組織間のつながりを遮断する工作だった。

 高木は紙袋に500万円が入っていることも知らないまま、指示されたトイレに入った。中の個室に入りドアを閉めると、ドアの外に現金回収役が現れた。高木は紙袋を持った手をドアの上に伸ばし、同じく手を伸ばしてきた回収役に渡した。相手が誰か、当然分からない。

 犯罪と知りながら受け子に手を染めた高木。その理由はまとまった金欲しさだった。高木は中部地方の高校を中退した後、職を転々とした。20歳前に結婚したがすぐに離婚。14歳の娘には長年会っていない。九州や東京でラーメン店経営にも携わったが、仲間との相性が悪く事業から離れた。

 その後は東京のアパートで一人暮らし。肉体労働で生計を立てるも4月に現場でけがをし、無収入になった。借金は約100万円、家賃を払えなくなり、実家の両親に立て替えてもらった。「受け子を1回やれば20、30万円はもらえると聞いた。いい年して、もう親には頼れなかったから」

 運んだ金の5%をもらえると聞いていたが、交通費を差し引いた報酬は5万円だった。その代償が2年間の懲役刑。「数カ月勾留されて、人生を見直した。金に対する執着がありすぎたかなと」。被害者には今後、何とか弁済したいという。

 高木は判決を受け入れ、控訴しなかった。受け子の生の声を知ってほしいとの思いから、今回の取材に応じたという。収監前日の最後の面会で「紙面を通し、伝えたいこと」を尋ねた。

 「山形にも上京する若者はいるだろう。危ないバイトに手を出さない方がいい。得することは、何もない」。高木は頭を下げ、面会室の奥に姿を消した。(敬称略)

(特殊詐欺取材班)

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