県内、特殊詐欺の実態~闇に迫る

第1部[4]・「自分は大丈夫」でも、被害寸前に

2015年10月25日
現金500万円を詐欺被害に遭いかけた大越栄子(仮名)が、男らとの会話を記録したメモ。「信じた私が悪いのか」と悔やむ=南陽市
現金500万円を詐欺被害に遭いかけた大越栄子(仮名)が、男らとの会話を記録したメモ。「信じた私が悪いのか」と悔やむ=南陽市
 自分は大丈夫だと思っていた。五輪の入場券を提供する、個人情報が漏れている―。かかってきた電話を詐欺と見抜いて切ってきた。彼らの手口を知っているつもりだった。「なのにどうしてあのときは…」。南陽市の大越栄子(73)=仮名=は悔やむ。考えてみれば、いつもと同じ不審電話だった。県職員をかたる男らを信用し、その日、現金500万円を引き出すために金融機関に向かった。

 9月17日午前10時ごろ。1人暮らしの大越が家の掃除を終え、一息ついているときだった。「大越さんの個人情報が企業に漏れている」。受話器の向こうで男が告げた。

 県の生活相談の担当者を名乗ったので、名前を知られていることも、話の趣旨も不自然に思わなかった。「悪用される。変な電話がかかってこないか」。身に覚えのある話だ。「削除するか」と問われ、お願いすると返して電話を切った。

 約10分後、男は困惑気味に伝えてきた。「削除できない」。代役を立てる必要があるという。意味が分からない。事務処理も早すぎる。聞き返したいが話は進む。「代役に心当たりがある。進めていいか」。結局、依頼した。県の仕事だ。処理が早いのはデジタル化されているからだ。そう自分を納得させた。

 この後、企業や代役をかたる男が次々と電話をかけてくる。複数の役柄が登場し、ドラマの一部のように話を進める「劇場型」の手口。後から考えれば見え透いたでたらめでも、大越は既に、男らのシナリオに引きずりこまれていた。

 個人情報が渡っていたのは被災地の除染を行う企業で、代役はボランティア関係者だった。個人情報は6桁の数字。企業から聞いたその番号を大越は代役に教えた。これが不正取引の原因となり代役が1千万円、大越が500万円を負担することに―。全て絵空事だが大越は信じた。迷惑を掛けていると責任を感じた。

 「銀行から帰ってきた。警察にあれこれ聞かれて大変だった」。正午を回ったころ、代役が伝えてきた。「大越さんはどう説明しますか」。不正取引がばれると罪になる。弟の家の改修費にしよう。独居の自分を世話してくれる恩返しだ。「運転に気を付けて」。男の配慮に気持ちが和んだ。

 500万円を持ち帰るという要請に、金融機関の担当者は身構えた。大越は用意した「理由」を伝えたが、追及されて返答に窮した。駆け付けた南陽署員に「着信履歴を確認したい」と求められた。それで解決するならと自宅に案内した。

 署員らと話したからか、帰りの車内で初めて冷静になり、胸騒ぎがした。帰宅するなり電話が鳴った。警察がいることを告げると「間違い電話だと言ってください」。一方的に切られた。着信履歴を見た署員が眉を寄せる。関東や関西の市外局番。「詐欺ですね」。体から力が抜けていくのを感じた。

 なぜだまされたのか―。「話が自分の状況に結び付いたからかもしれない」と大越は振り返る。数日前にも不審電話があったため、個人情報が漏れていると聞いて早合点した。復興に携わるという人物設定も相性が悪かった。地域活動に取り組んできた経験から、彼らを応援したいと思った。

 冷静に考える余裕もなかった。1回の通話は10分ほど。短い時間ではない。その上、10分もせずに次の電話が鳴る。昼食を取る時間すらなく疲弊した。500万円という大金の重みさえ感じていなかった。大越は自分を責める。「素直に応じた私が悪いのか。人を信じられない時代なのか」(敬称略)
(特殊詐欺取材班)
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