県内、特殊詐欺の実態~闇に迫る

第2部[中]・口座売った会社員 犯罪加担の意識なく

2016年01月25日
新橋駅前で再会した安田明=仮名=は記者に「まさかおまえに取材されるとは思わなかった」と苦笑いした=東京
新橋駅前で再会した安田明=仮名=は記者に「まさかおまえに取材されるとは思わなかった」と苦笑いした=東京
 イルミネーションに彩られた師走の東京・新橋。宝くじ売り場にできた行列の向こうに、安田明=仮名=が姿を見せた。30代の安田は本県の出身で、今は都内で会社員として働いている。記者の古くからの友人だ。

 「安田が詐欺に関わって、警察に事情を聴かれた」

 少し前、そんなうわさを耳にした。2人で近くの喫茶店に入り、互いの身の上話もそこそこに、詐欺の件を切り出した。陽気な安田には珍しく、表情は硬い。じっと目を見据えたまま、口を開いた。

 安田は5年ほど前、銀行口座を売ったという。その口座が「振り込め」に使われた。詐欺グループは捜査をかく乱するため、現金を振り込ませる口座を無関係の第三者から買い取る手法を取る。

 当時、安田が勤めていた会社の同僚が、小遣い稼ぎを持ち掛けてきた。

 「キャッシュカードを売ってくれって頼まれて。詐欺に使うって知ってたけど、あいつ(同僚)すごく頭良くて、大丈夫と言われて信じたのかな」

 持っていた二つの口座に加え、新たに2口座を開設し、キャッシュカード4枚を渡した。安田に得た報酬のことを尋ねると、聞いている側の力が抜けるほど、悪びれずに答えた。

 「カード1枚で3万円ぐらい。もらった金? パチンコで消えたよ」

 カードを売ってしばらくすると、同僚が口座に入っている金を使っていいと、カードを戻してきた。銀行に行くと見知らぬ人物から11万円ほど振り込まれていたが、凍結されている。銀行の職員が事情を尋ねてきた。怖くなってカードをはさみで切って捨てた。

 同僚は後日、逮捕され、安田も数回、警察に事情を聴かれた。知っていることは話したが、逮捕はされなかった。同僚が詐欺グループでどんな役割だったのか、詳しくは分からない。断片的だが、詐欺グループのアジトの仲介などにも手を出していたらしい。

 詐欺と知りながら他人に譲る目的で口座を開設すれば、罪に問われる。振り込め詐欺に加担した感覚や、逮捕される恐怖はなかったのか―率直な疑問をぶつけた。

 「ないね。捕まりやすい受け子とか、危ないことはやらない。その線引きはできている」

 事もなげに言い切って、安田は続ける。

 「受け子は被害者に会って金を手にするじゃん。その時点で詐欺に着手した、となるよね。俺はカード渡しただけだから」

 自分は詐欺には加わっていない、という主張だった。ただ、もう巻き込まれたくないとも話した。事件の影響でブラックリストに載ったのか、今も銀行で口座を作れない。

 取材に区切りをつけ、一緒に酒を飲んだ。笑ってはいるが、どこか疲れた顔で、今の仕事がきついと言う。東京に出て十数年にもなる安田が、寂しそうな目で嘆いた。

 「都会は好きになれない。山形に帰りたい」

(敬称略)
(特殊詐欺取材班)
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