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老舗の灯…再び 七日町の郁文堂書店、10年ぶり店頭販売

2017年04月25日 09:35
10年ぶりに店頭販売を再開し、笑顔を見せる原田伸子さん=山形市・郁文堂書店
10年ぶりに店頭販売を再開し、笑顔を見せる原田伸子さん=山形市・郁文堂書店
 山形市七日町2丁目にある小さな書店が10年ぶりにシャッターを開けた。かつて斎藤茂吉や井上ひさしさんら文化人に愛された「郁文堂書店」。大規模書店に押され、夫に先立たれ、一度は店の明かりを消したオーナーの原田伸子さん(81)。再びシャッターを上げるその手を、2人の若者の熱い思いと、再開を願ったファンが支えている。「また一から頑張りたい」。創業84年の老舗に、伸子さんの笑顔が戻った。

 郁文堂書店は1933(昭和8)年に古書店としてスタート。41年に七日町1丁目から、現在のシネマ通りに移転した。戦後は謡曲や文学全集の新刊本などを扱い、新聞連載記事を本にまとめ、郷土誌を発行するなど出版業も手掛けた。

 伸子さんは23歳の時、2代目店主・吉則さん(故人)に嫁いだ。書店の奥に「郁文堂サロン」があり、作家や画家が集った。歌人結城哀草果は晩年、3日に一度ハイヤーで来たという。「先生の座る場所は決まっていてね。席が空くのをずっと待っていたものよ」と伸子さんは懐かしむ。作家司馬遼太郎、詩人真壁仁、歌人結城健三、洋画家真下慶治の姿もあった。毎日がにぎやかだった。

 娯楽が少ない戦後に栄えた書店業界も斜陽を迎える。県書店商業組合によると組合設立の87年は会員数が80ほどだったが、2015年は48と半減。後継者不足、チェーン店やネット書店の台頭が要因だ。山形市内で現在も続く老舗は、音楽や映像など多様なコンテンツも取り入れた八文字屋(1695年創業)、医学書専門の高陽堂書店(1926年創業)などで、町の書店は多くが姿を消した。

山形市七日町1丁目に創業した郁文堂書店。伸子さんの夫・吉則さんは母親に抱きかかえられている=1933年
山形市七日町1丁目に創業した郁文堂書店。伸子さんの夫・吉則さんは母親に抱きかかえられている=1933年
 かつてシネマ通りにも一般書籍や地図を得意とする書店がもう二つあったが、90年代に閉店。その中で頑張ってきた郁文堂書店だが、吉則さんが2007年に亡くなり、廃業の危機を迎えた。「店を閉めるのは簡単だけど、うちが扱うのは郷土誌などの貴重な資料。簡単に処分するわけにはいかなかった」と伸子さん。店のシャッターは下ろしたが、注文販売のみ続けることを決めた。

 80歳を迎えた昨年からは「店じまいのことばかり考えていた」。そこに東北芸術工科大の学生が訪れた。建築・環境デザイン学科3年=当時=の追沼翼さんと芳賀耕介さん。東隣の「とんがりビル」を再生した馬場正尊教授のゼミ生で、店のたたずまいを気に入り、改装を持ち掛けた。インターネットによるクラウドファンディングで資金を募ると目標80万円に対し、100万円以上が集まり、ファンの多さを裏付けた。

 店頭販売は今月8日に再開した。その数日後、市内の70代男性が駆け付けた。約30年前に郁文堂書店で買い求めた謡曲の本60冊ほどを両手に抱え、「読んでくれる人がいたらいいと思って」。伸子さんは日に焼けた表紙をいとおしそうに見詰めた。託された本は、かつて並んでいたであろう書棚に収められ、新しい出合いを待っている。

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