社説

慰安婦巡る日韓関係 視野の広い戦略が必要

 「韓国側にしっかりと誠意を示してもらわないといけない」

 韓国南部・釜山の日本総領事館前に設置された従軍慰安婦被害を象徴する少女像に関し、安倍晋三首相は8日放送のテレビ番組でこう述べ、撤去を求める意向を表明した。対抗措置の一つとして長嶺安政・駐韓大使が9日、一時帰国した。

 日韓両政府は2015年12月の合意で慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した。日本は韓国が設立する元慰安婦の支援財団に10億円を拠出。韓国はソウルの日本大使館前に設置された少女像を巡り「適切に解決するよう努力する」ことになった。その糸口がいまだ見えないうちに先月30日、今度は釜山の市民団体が少女像を設置した。日本政府からすれば、韓国政府に善処を求める今回の対応は「外交的な正論」(官邸筋)ということになる。その主張には確かに筋が通っている。

 一方で冷静に見極めなければならないのは、日本の対応が韓国の世論に与える影響だ。

 今回の少女像設置は、韓国国内で収まることのない朴槿恵大統領への退陣要求運動と連動している。つまり、慰安婦問題に関する日韓合意に関しても、朴氏の強権的な政策の典型だとして反発が拡大しているという構図だ。当の朴氏は、親友の国政介入疑惑によって国会に弾劾訴追され職務停止中。韓国政府は当事者能力をほぼ失っている。日本側が合意の履行を求め、現時点で強い姿勢を示しても、相手方にそれを受け止め、実行できる主体がないということだ。

 しかも、韓国の世論調査機関の昨年末の調べでは、従軍慰安婦問題に関する日韓合意を「破棄すべきだ」との回答が59%を占め、「維持すべきだ」の25.5%の倍以上に達した。合意発表直後の調査では43.2%が肯定的だったため、1年を経て否定的な評価が強まったことになる。朴政権退陣要求集会では合意破棄を求める声が上がり、次期大統領選の野党系有力候補はそろって見直しを掲げる。

 このような状況では、日本が正論を掲げるだけなら韓国内で日本の主張が客観的に議論される余地は少ないと予想がつく。日本はこの局面を冷静に、長期的な視点で乗り越えていく必要があろう。

 例えば、著書「帝国の慰安婦」がある韓国・世宗大教授の朴裕河氏は15年12月の日韓合意直後「日韓の関係者や市民間の認識差を縮める国民的な議論を、もっと重ねるべきだった」と述べていた。同書が元慰安婦らの名誉を傷つけたとして韓国検察が懲役3年を求刑するなど、一方の立場に偏らない論客として知られる朴教授の指摘は傾聴に値する。

 日本政府は今回▽金融危機時にドルなどを融通し合う「通貨交換(スワップ)協定」再開の協議中断▽日韓ハイレベル経済協議の延期―も決めた。当面実害がないとみた措置だが、世界経済の先行きは波乱含みだ。日韓関係の悪化を受けて2国間の安全保障協力が後退するようなことになれば、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮を利することにもつながりかねない。日本は韓国政界の今後を注視しながら、アジアの安定も見据えて外交戦略を構築していくべきだ。

(2017/01/10付)
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