社説

紅こうじサプリ 被害の拡大、全力で防げ

 紅こうじを使った小林製薬(大阪市)のサプリメントで健康被害が発生し、死亡事例が報告された。被害把握から使用停止の呼びかけまで2カ月余りかかっており、消費者に情報を伝えるのが遅れた同社の責任は重い。

 被害拡大を防ぐのが最優先であり、店頭からの製品回収を急がねばならない。

 紅こうじサプリが被害を引き起こした仕組みや、患者の症状との関連などはまだはっきりしない。健康被害が起きた原因を究明しなければならないのは言うまでもない。同時に、紅こうじサプリのような「機能性表示食品」の安全確保策も検討するべきだろう。

 これまでに死亡は2例報告されており、入院は100人を超えた。小林製薬によると、医師からの通報で健康被害の可能性を知ったのは1月15日。2月上旬には腎疾患の症例を複数把握していたが、3月22日まで明らかにしなかった。

 原因が判明しなかったため、「公表すべきかどうか判断できなかった」としているが、公表の遅れが被害者を増やした可能性もある。もっと早く製品を回収し、利用の停止を呼びかけるべきだった。小林製薬の判断は、利用者の健康を守ることを後回しにしたと言われても仕方あるまい。

 蒸した米に紅こうじ菌を混ぜて発酵させて製造する紅こうじは伝統的な食品で、天然の着色料としても広く使用されてきた。小林製薬は紅こうじ原料を50社以上の飲料メーカーや食品会社に販売しており、国内に幅広く流通。各社が製品の自主回収を進め、県内の事業所も対応に追われる。

 健康被害を巡って消費者の不安は広がり続けている。小林製薬には問い合わせが殺到しており、同社だけで対応し切れない可能性もある。政府や自治体は、消費者センターや保健所、自治体の窓口などでも相談に応じ、利用者の不安に耳を傾け、必要なら医療機関への仲介をしてほしい。こうした幅広い取り組みの中から、原因の究明につながるヒントが見つかるかもしれない。

 体への効能を表示できる健康食品は「栄養機能食品」「特定保健用食品(トクホ)」が先行し、2015年から機能性表示食品が加わった。

 ビタミンなどの含有量に規格基準がある栄養機能食品や、国の許可が必要なトクホと違い、機能性表示食品は、効能を裏付ける学術論文などを消費者庁が受理すれば「脂肪の吸収をおだやかにする」などの機能性を表示し販売できる。

 高齢化社会で関心が高まる健康食品を成長市場と見込み、安全に関わる規制を緩和して生み出されたのが機能性表示食品ではないか。当時の政府の判断が妥当だったか、改めて検証する必要がある。

 届け出済みの製品は6千件を超える。消費者庁は全ての機能性表示食品の緊急点検を実施するという。安心を取り戻すため抜け落ちのないよう徹底すべきだ。

 機能性表示食品による健康被害や製品回収は初めてであり、軽視するわけにはいかない。製品の効能だけでなく、リスクを巡る情報も消費者に知らせる必要があるだろう。安全性の視点から現行制度を見直し、改善策を探ってほしい。

(2024/03/28付)
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