社説

鶴岡市の月山ワイン ブランド力向上に期待

 豊かな食文化が根付く鶴岡市は、酒どころとしても知られている。2月に開催される大山新酒・酒蔵まつりは、厳寒期にもかかわらず、毎年多くのファンを集め、今年は約3千人が酒蔵を巡りながら新酒を堪能した。その鶴岡に「もう一つの地酒」がある。朝日地域で生産され、地元のJAとブドウ農家の二人三脚でブランド力を育んできた月山ワイン。誕生から37年を迎え、地域社会に愛されるワインを志向する道を着実に歩んでいる。「食の都庄内」「食の理想郷」の一翼を担う、より確かで豊かなブランドとして育んでいきたい。

 山あいの集落ではかつて、山野に自生するヤマブドウを発酵させ、自家製の滋養酒として愛飲した。月山ワインを醸造している朝日地域でも山ぶどう酒は古くから生活に密着した存在だった。しかし、これが密造酒に当たるとして摘発される騒ぎがあった。月山ワインは、この騒動をルーツとしている点で興味深い。

 創業20周年(2000年)の記念冊子に、当時のことがこう記されている。

 (ワイン造りを始めた動機は)摘発さ れたことへの怒りである。「そんな不 合理なことがあるか!」と税務署と交 渉に入ったことが発端。生来の負けん 気の強さが仇(あだ)となり「じゃあ 合法的に醸造すれば文句はなかろう」 となった。

 元庄内朝日農協参事・故桜井茂男さんの手記である。自生するヤマブドウを、農家の複合経営作目として植栽・栽培し、これを原料にワインを商品化するという新たな取り組みに、当初は「無理だろうと笑う関係者もいた」という。月山ワインというブランドには、税務当局の摘発に対し、矢面に立って交渉に当たった農協職員の気骨と、開発に携わった人々のフロンティアスピリットがDNAとして刷り込まれている。

 地元の自然の恵みを「合法的に」活用するため、1972年に農協独自のワイン造りがスタートし、79年に果実酒醸造免許を取得。80年に市場デビューを果たした。山あいにある小さな農協の大きな挑戦が月山ワインの原点になっている。

 現在、原料のブドウは、ルーツのヤマブドウに加え、甲州、ヤマ・ソービニオンなど5品種。メルロー、ピノ・グリなどの品種を、新たな原料として可能性を見極めるために試験栽培している。「鶴岡という土地や気候に合う品種を常に追究し続けないと、次につながっていかない」。醸造元のJA庄内たがわ(黒井徳夫組合長)の阿部豊和月山ワイン係長は、こう話す。草創期の情熱は、きちんと今の世代に引き継がれている。

 庄内の風土は固有の食文化を育んでいる。県は豊かな食を発信する「食の都庄内」のブランド化に力を入れる。鶴岡市は国連教育科学文化機関(ユネスコ)の創造都市ネットワークに食文化の分野で国内に先駆けて加盟を果たし、訪日客を農山漁村に呼び込む農林水産省の「食と農の景勝地」にも認定された。

 豊かな食文化は地域振興につながる有力な資源であり、その基盤になり得る。食を彩る地元産ワインが担う役割は大きい。品質のさらなる向上に努め、ブランド力をより培いたい。

(2017/03/21付)
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