社説

サウジ人記者行方不明 批判は国を思ってこそ

 サウジアラビア一国の突出した行動だろうか。いや、批判の声を抑圧するような強権的国家が、このところ世界的に散見される状況を象徴しているようにも思える。

 米国在住のサウジ人著名記者で、母国の政府を批判してきたジャマル・カショギ氏が、トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館を2日に訪れてから行方不明になった。トルコ側はカショギ氏が領事館内で殺害されたとみており、エルドアン大統領のアクタイ顧問は「サウジ人が事件に関与した可能性が非常に高い」と明言した。トルコ当局が、記者が殺害された際の音声を入手しているとも報じられている。

 サウジのサルマン国王は15日にトランプ米大統領と電話会談し、サウジ当局の関与を「非常に強硬に否定した」という。一方で複数の米メディアは、記者を尋問中に手違いで死亡させたとする発表をサウジ政府が準備していると伝えた。

 カショギ氏は、サウジで絶大な権力を握るムハンマド・ビン・サルマン皇太子の政策やイエメン介入を批判する記事を米紙ワシントン・ポストに寄稿していた。次期国王と目される皇太子はこれまでの石油依存からの脱却を目指すほか、世界で唯一禁止されていた女性の自動車運転を解禁するなど、経済社会改革を推進している。ただ批判的な王族や人権活動家らを逮捕したことに表れているように、反対意見を強権で封じているとの懸念が強まっていた。

 同紙は米当局者の話として、カショギ氏を米国からサウジに誘い出し拘束するよう皇太子が指示していたと報道している。改革のためには言論封殺も許されると考えているなら、本末転倒と言わざるを得ない。

 当事者であるサウジ、トルコ、米国のうち、米国とサウジは良好な関係といえる。トランプ氏は大統領就任後の初外遊先にサウジを選んだほか、対イラン包囲網構築のため親サウジ路線を鮮明にしてきた。米国がサウジとの間に1100億ドル(約12兆円)相当の武器を輸出する合意もある。これに対してトルコは、サウジが昨年断交したカタールと結び付きを強化し、イランとも関係が良好で、サウジとは以前からぎくしゃくしていた。

 トランプ氏は、殺害が事実なら「厳罰が待っている」と、サウジに強い制裁を科す考えを表明した。このような姿勢と、武器輸出という経済的利益をてんびんにかけるような事態があってはならない。

 記者の受難はサウジだけにとどまらない。ミャンマーでは先月、イスラム教徒少数民族ロヒンギャに関する極秘資料を警察から不法に入手したとして、国家機密法違反の罪で起訴されたロイター通信のミャンマー人記者2被告に、いずれも禁錮7年の判決が言い渡された。

 今回の当事国であるトルコでも、2年前のクーデター未遂事件の後、反政府系メディアへの弾圧が強まった。ニューヨークに本部を置く民間団体・ジャーナリスト保護委員会(CPJ)によると、少なくとも81人の記者が投獄された。

 批判の声は、その国や社会を良くしようと思ってこそ上げられていることを、忘れてはならない。

(2018/10/17付)
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