社説

勤労統計不正の特別監察 調査は踏み込み不足だ

 15年間にわたる不正が発覚した「毎月勤労統計」問題で、厚生労働省の特別監察委員会は、調査報告書をまとめ、同省は現職事務次官はじめ歴代の幹部22人を処分した。しかし調査は踏み込みが不十分で、真相解明にはほど遠いと言わざるを得ない。これでは行政への信頼を取り戻すことは難しいだろう。

 賃金や労働時間の動向を把握するため、都道府県を通じて実施する勤労統計は、従業員500人以上の企業について全て調査しなければならないにもかかわらず、2004年から東京都分で抽出調査が始まった。

 誰がどんな目的で不正な調査に切り替えたのか。なぜ全数調査に近づけるようデータの修正・復元を行わなかったのか。どんな理由で15年分調査用の都道府県向けマニュアル(要領)から抽出を容認する記述を突如削除したのか。どうして18年1月分以降はデータを修正する改変ソフトを導入したことを公表しなかったのか。国民の知らぬところで進行した不正にはいくつもの「疑念」が浮かび、消えた年金記録問題をほうふつとさせる。

 今回の監察委報告書は、統計法違反と認定しながらも、「担当者が判断し、決裁や上司への相談なく対応」「漫然と前例踏襲されていた」「部局長級職員は実態の適切な把握を怠り、是正しなかった」などとするだけで、「組織的な隠蔽(いんぺい)」も認めず、核心部分に切り込んだとは言い難い。

 政府の統計は、あらゆる政策立案の基礎になるものだ。とりわけ、勤労統計は、統計法で定める「基幹統計」の一つで、国内総生産(GDP)、月例経済報告などにも用いられる。“虚偽”の数字と知りながら、長期間放置していた行為は、「公務員は全体の奉仕者」(憲法15条)という自覚が完全に欠落している。国民への裏切りという非難は免れまい。

 厚労省では昨年の働き方改革関連法の国会審議で、労働時間に関するずさんな調査が判明、最大の眼目であった裁量労働制の対象拡大の削除に追い込まれた。各省庁で障害者雇用を水増ししていた実態も所管官庁として見逃している。

 厚労省だけではない。財務省では森友学園への国有地売却を巡る決裁文書の改ざん、防衛省・自衛隊では自衛隊の海外派遣時の日報隠蔽と、不祥事が相次ぐ。不都合な真実を改ざんしたり、隠したりするのが、官僚や組織の構造的な体質と言われても仕方ないだろう。

 根本匠厚労相は「しっかり調査していただいた」と強調したが、特別監察委員会の初会合からわずか6日間の調査。不正のきっかけを、企業の苦情や都道府県の要望としているのに、自治体側に直接聴取してもいなかった。厚労省幹部が「できるだけ早い対応が政治からの要請だ」と明かしたように、早期に幕引きさせたいとの安倍政権の思惑がちらつく。

 雇用保険などの過少支給者に追加で支払えば決着する話ではない。政府の調査に限界があることが明らかになった以上、国会がその役割を担う場面だ。与党内からも「あまりにも拙速で原因究明になっていない」との批判が上がっている。国会は行政監視という三権分立の本来の機能を発揮してもらいたい。

(2019/01/24付)
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