ちょっとそこまで

洋学者・本間郡兵衛を追う~酒田

(2011/06/07掲載)

多才で美男子、もてもて

江戸時代の酒田湊は北前船が多数往来した。本間郡兵衛は広い世界につながるその光景を見て、青雲の志を抱いたのかもしれない=酒田市入船町
江戸時代の酒田湊は北前船が多数往来した。本間郡兵衛は広い世界につながるその光景を見て、青雲の志を抱いたのかもしれない=酒田市入船町
 勝海舟や西郷隆盛、清河八郎、榎本武揚、ジョン万次郎ら幕末のヒーローと深く関わり、日本初の株式会社を設立、オランダ語と英語に堪能な上、葛飾北斎晩年の弟子で女性にもてもて-。本間家の分家、本間新四郎家出身の洋学者本間郡兵衛の活躍ぶりを聞き、心が躍った。酒田市内にその残照を追った。

 本間家が収集した和書や漢籍など約7万7千冊を収蔵する光丘文庫を訪ねた。事務室で「本間家に関して教えてほしいのですが…」と切り出すと、後藤吉史文庫長、市史編さん委員の杉原丈夫さん、古典籍調査員の田村真一さん、事務員の大水信子さんが歓待してくれた。4人は郡兵衛談議に花を咲かせ、新四郎家11代当主の医師本間利美さん(77)を紹介してくれた。

 早速連絡すると「取材? どうぞ」と利美さん。すぐに駆け付けた。「郡兵衛は語学、蘭学、絵、彫刻など多才だった。また鼻筋が通った美男子で女性に持てた。女性から届いた多くの恋文が残っている」。去年80歳で亡くなった郷土史家田村寛三さんは著書に「『そのうつりかも今にさりやらず(中略)おそばへまへる事も出来かね(中略)ただじれったくのみ日をおくり参らせ候』。言葉遣いから江戸の芸者あたりと想像するが、こんな恋文をもらうことは男として本望であろう」と記している。

 薩摩藩士石河確太郎らと設立した日本初の株式会社の草案で郡兵衛直筆の「薩州商社発端」を見せてもらった。利美さんは「外国遊学で西洋の進んだ経済と文化を目の当たりにし、日本が植民地にされることを恐れた。回船問屋に生まれたことも薩州商社設立に生きたはずだ」と分析する。同藩の保護を受けた浪士結社「亀山社中」の設立と比べても、家老小松帯刀への「覚」提出が2年早かった。

 郡兵衛は1853(嘉永6)年、浦賀で米のペリー艦隊を写生。その時の「黒船」の絵が本間美術館にある。田中章夫館長(60)は「甲板に船員を描くなど記録者の視線で見ている。当時の人はこの絵を見て黒船の大きさに驚いただろう。技量も素晴らしい。きちょうめんな文字や線質からも郡兵衛の意思の強さが感じられる」と解説する。

郡兵衛の生家は酒田大火で焼け面影はないが、生家脇の古木・大ケヤキは大火延焼を免れ、今も涼やかな木陰をつくっている=酒田市二番町
郡兵衛の生家は酒田大火で焼け面影はないが、生家脇の古木・大ケヤキは大火延焼を免れ、今も涼やかな木陰をつくっている=酒田市二番町
 その足で生家跡と浄福寺(菊池倫紀住職)の墓所を歩いた。利美さんは「郡兵衛が毒殺された2カ月後に明治になった。生きていれば活躍の場があったはず、残念でならない」と話す。

先人の活躍に心躍る

 郡兵衛が青少年期を過ごした酒田は最上川舟運と西回り航路によって栄えた。湊(みなと)町特有の「自由進取」の気質があった。薩州商社で郡兵衛は酒田を東北の拠点湊にしようとした。実現していれば、どれほどにぎわっただろう。いま郡兵衛が生きていたなら、北前船にどんな“夢”を載せてくるだろう。
(酒田支社・横山卓)

【メモ】本間郡兵衛 1822(文政5)年~68(慶応4)年。現酒田市本町2丁目の本間家分家、本間新四郎家の次男として生まれる。洋学者、浮世絵師。江戸で蘭学(らんがく)、英語を学ぶ傍ら葛飾北斎最晩年の門人になり北曜と号した。勝海舟の下で勝塾の蘭学教師、長崎海軍伝習所の通訳を務めた後、鹿児島開成所で英語教師になった。英、仏、露、中、米に遊学。63(文久3)年、日本初の株式会社「薩州商社」に関する草案の前段の「覚」を薩摩藩士石河確太郎らとともに家老小松帯刀に提出、67(慶応3)年に「薩州商社発端」を起草した。同年、薩州商社酒田支社実現のため帰省したが、荘内藩から薩摩のスパイと疑われ鶴岡に幽閉。翌年、明治に改元される直前、何者かに毒殺された。
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