ちょっとそこまで

大蔵村を歩く

(2011/09/21掲載)

山あいの分校で白昼夢

古民家を生かした劇場「すすき野シアター」の舞台でポーズを取る森繁哉さん
古民家を生かした劇場「すすき野シアター」の舞台でポーズを取る森繁哉さん
 あの日、白昼夢を見た。山あいの小さな分校。子供たちは駆け回り、踊る男もいた。村人が集い、校舎にオルガンの音が響く。異空間に迷い込んだような1日を思い返してみる。

 朝から歩いていた。大蔵村役場のある清水から肘折温泉まで約20キロ。大好きな土地を心行くまで味わおうと思っていた。炎天下、国道458号をひたすら進むと、数時間ぶりに村人に遭遇した。77歳のおばあちゃん。肘折まで歩くのだと話し掛けると「んだが、足丈夫になっから歩げ」と至ってクール。聞けば若かりしころ、自分の背丈ほどある牛乳入りの容器を背負って肘折近くから清水まで雪の中を運んだという。「今の若い人には分がらねべな」。小さな曲がった腰が苦労を物語る。

 次第に道の勾配がきつくなる。通り過ぎた集落はいつの間にか眼下にあった。塩、桝玉(ますだま)、日陰、蕨野(わらびの)、蔦郷(つたごう)、湯の台、牧場前-。人けのないバス停がたたずんでいる。「あらあら」と通り掛かった車から声を掛けられた。「何者!?」と震え上がると、温泉で待ち合わせをしていた村在住の舞踏家森繁哉さん(64)だった。車に乗せてもらい、あと1時間と見積もっていた肘折まで数分で到着する。

 この日のもうひとつの目的が、森さんが主宰する柳渕の「すすき野シアター」を訪れることだった。かやぶきの古民家の居間を舞台にし、牛のねぐらだった場所を客席にした独特の演劇空間に圧倒される。

 「この集落に映画館を作ろうとしている人がいるんだ。紹介したい」と森さんは驚きの発言。現れたのは映像作家鈴木敏明さん(53)=東京。古民家の土間にスクリーンを張って映画を上映したり、昔ながらの人々の暮らしぶりを物語にして記録するという。大正時代からこの民家に伝わるお雛さまを飾り、住民たちが雛祭りパーティーをする-など既に筋書きを描いている作品も。鈴木さんは「大地に根ざした『物語』をつくりたい」と熱く語る。

大地と芸術の“異空間”

旧南山小柳渕分校をよみがえらせた「南山村芸術学校」のレトロな廊下
旧南山小柳渕分校をよみがえらせた「南山村芸術学校」のレトロな廊下
 近くには旧南山小柳渕分校を活用した「南山村芸術学校」もある。教室は美術館や喫茶室に生まれ変わっていた。窓を開け放つと、見渡す限り続く山。辺りはしんと静まり返っている。夕暮れが近い空は一面黄色く染まり、ああ、白昼夢はここで見たのだった。途方もないほど濃密な土地の記憶をはらんだ空気が、幻覚を見せる。

 温泉街に戻っても、空は黄色くて、まどろんだ気配に満ちていた。新庄行きの最終バスに乗り込んで、来た道をゆるゆる戻る。あんな山奥で楽しそうに語らっていた森さんや鈴木さんは、果たして本物だったのだろうか。夕暮れ空をぼんやり眺めていると全てが夢だったような心持ちがした。

(報道部・高橋澄恵)

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