ちょっとそこまで

伴淳三郎の故郷を歩く~米沢

(2011/11/16掲載)

映画「飢餓海峡」の名場面に感動

酒井和昭さんが見せてくれた「飢餓海峡」のポスター。右端の帽子姿が伴淳三郎=米沢市民文化会館
酒井和昭さんが見せてくれた「飢餓海峡」のポスター。右端の帽子姿が伴淳三郎=米沢市民文化会館
 薄暗い留置場の2人。黙秘する殺人容疑者に東北なまりの初老の元刑事が問い掛ける-。映画「飢餓海峡」の名場面。刑事を演じているのは誰だろう。いぶし銀の趣がある。すごみがある。出演者を確認してうなった。「この人が伴淳(ばんじゅん)!」。初めての“出会い”だった。「伴淳」とは昭和を代表する喜劇俳優・伴淳三郎(1908~81年)のこと。名前しか知らず、笑わせ人というイメージしかなかったが、飢餓海峡の彼は渋かった。気になった。どのような人物なのか、そして留置場での迫真の演技をもたらしたものはなんだったのか。この思いに駆られ、彼の生まれ故郷、米沢市を訪ねた。

 市内では、映画愛好家の有志が設立した「伴淳の会」が周知活動に尽力している。代表の酒井和昭さん(57)=同市川井=に会うと、飢餓海峡のポスターを見せてくれた。1965(昭和40)年の劇場公開時のポスターだが当時のままきれいに保存されている。緊迫感に満ちたデザインが素晴らしく、手にすると数々の場面が思い出された。

 伴淳の人生について酒井さんに聞くと、喜劇俳優の“もう一つの顔”が浮かんできた。米沢市屋代町(現在の丸の内付近)生まれの伴淳は、子どもの時に父を亡くし、生活は極貧。それでも家族のために芸で身を立てると誓い14歳ごろに上京。長い下積みを経て役者の地位を確立する。「どん底生活を味わい、明日の飯にも困り、もがきながら生き抜いた人間」と酒井さん。伴淳本人がかつて山形新聞に寄稿した「青春の軌跡」によれば、「幼い日からさんざん人にこき使われ、泥をなめるような苦しみを味わった」という。だが「人さまに幸せを与える人間になっておくれ」という母の言葉を心の支えに、決して道をそれず大成した。

 その伴淳が飢餓海峡で刑事役を演じ、貧しさから逃れるために罪を犯した人間と留置場で対峙(たいじ)する。そして問い掛ける。人の道を。撮影の裏話がある。役作りに悩んだ伴淳が向かったのはなんと山形警察署だ。署に入ると畳の取調室で2人の定年間近の刑事が男を調べていた。「明日にも定年を控えながら心魂を傾けた取り調べぶりに頭が下がり、深い感動を覚えた」と伴淳。この刑事に密着して役のイメージを固めた。山形警察署の実在した刑事のひた向きな姿がモデルになっていたとは、胸が熱くなる。

 刑事役に抜てきしたのは名匠内田吐夢(とむ)監督。酒井さんが語る。「伴淳と長年の親交があり本性を見抜いていた監督は厳しく情熱的に指導した。それによって演技を超えた伴淳の人間性が引き出された」と。思えば飢餓海峡のストーリーは伴淳の人生と重なる。役を演じながら自らの苦しい道のりを思い出していたかもしれない。その記憶こそが人間味あふれる迫真の演技へと導いたのではないかと思う。

胸に刻む名優の“教え”

芸能神社の本殿正面。ご神体はアメノウズメノミコトだという
芸能神社の本殿正面。ご神体はアメノウズメノミコトだという
 酒井さんと伴淳ゆかりの「芸能神社」を訪ねた。米沢市遠山町の愛宕神社境内に昭和50年代前半、晩年の伴淳らが東京都から移築した神社だ。わざわざ都内から移した詳しい経緯は分からないが、人を楽しませ、涙させ、感動させる芸能の振興を願い、芸能を通して人々に生きる喜びを伝えたかったのではと思う。

 最後に伴淳が眠る極楽寺に寄ると、モミジが参道を彩り、時折散っていた。ふとどこかで聞いた言葉を思い出した。「落ち葉は風を恨まない」。伴淳に似合う言葉だ。どんなに過酷な状況でも、運命を恨まず、希望を持ち、人の道を歩め-。名優の生きざまからにじみ出る教えを胸に刻んだ。

(報道部・堀川貴志)

【メモ】映画「飢餓海峡」 水上勉の同名小説を原作に内田吐夢が監督したモノクロ作品。出演は伴淳三郎、三國連太郎、左幸子、高倉健ほか。青函連絡船転覆事故に絡む殺人事件の容疑者(三國連太郎)を伴淳三郎演じる弓坂刑事が長い歳月をかけて追う様子を描く。戦後の荒廃した社会状況を背景に人間の宿命を浮き彫りにした傑作。伴は「忘れようにも忘れられない心魂をくだいた映画」と語った。
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