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ファシリテーター山形大学医学部参与嘉山孝正氏
参加者国立がん研究センター理事長・総長中釜 斉氏
国立がん研究センター東病院長大津 淳氏
山形大学医学部長山下英俊氏
山形大学医学部附属病院長根本建二氏
山形大学医学部内科学第二講座教授上野義之氏
山形大学医学部内科学第三講座教授石澤賢一氏

一人一人に合わせて治し、防ぐ

 今や日本人の2人に1人がかかる病「がん」。そのがんについて、遺伝情報(ゲノム)を基に解明し、治療へと応用する動きが急速に進展し、がん医療は大きな変革期に立っている。患者個々にとって最適な薬や治療法が分かる「個別化医療」が可能な時代となってきた。そんながんゲノム医療の「いま」について、日本のがん医療の最先端を行く国立がん研究センターと、東北のがん医療をけん引する山形大学医学部のリーダーたちが語り合った。コーディネートしたのは、国立がん研究センター初代理事長で、現在名誉総長の嘉山孝正氏(山形大学医学部参与)。未来のがん医療を展望する座談会の内容を詳報する。

がんゲノム医療とは

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 嘉山 がんゲノム医療とは、患者一人一人のがんの原因となっている遺伝子変異に合わせて、薬剤や治療法を決める新しいがん医療のかたちだ。昨年3月、厚生労働省が全国11カ所の「がんゲノム医療中核拠点病院」、100カ所の「がんゲノム医療連携病院」を指定したことで、ようやく国を挙げてゲノムを中心としたがん医療を提供する体制が整ってきた。そのゲノム医療だが、歴史はそう古くはない。どのように進展してきたのか。

 上野 遺伝子は基本的に私たち生き物の設計図のようなもの。そこに異常が生じたものががん細胞であり、恒常性を破綻させて増え続ける。1980年ごろまでは、がんがどのようなメカニズムで発症するか全く分かっておらず、抗がん剤による治療は、増えてきたがん細胞をとにかくたたくというものだった。それが82年に、がん発生を引き起こすヒトのRASという遺伝子異常(がん遺伝子)が見つかったのを契機に、さまざまながんでそうした遺伝子異常やがん抑制遺伝子が発見されるようになった。そうした遺伝子の探索、そしてそこを狙って効く薬の開発など、治療への応用が世界中で精力的に進められている。


がんの層別化

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 嘉山 医療にゲノムが入ってきたことで、これまでは肺がんなら肺がんとしか見られなかったものに、階層ができたということだ。さらに標的が分かれば何%かは確実にたたけるようになった。それが一つの大きな変化だ。

 石澤 私の専門でいうと血液の分野は、検体の採取がしやすいことから、早くからゲノム研究が進んだ。約60年前の論文に、慢性骨髄性白血病(血液のがん)で特異な染色体が共通して認められると記述されている。その後フィラデルフィア染色体と命名され、それに伴う遺伝子の異常を標的とした薬(分子標的薬)イマチニブが2001年の秋、承認された。以降、この白血病は薬剤でコントロール可能となり、骨髄移植をしなければ生きられないような病ではなくなった。

 嘉山 血液の分野がゲノム医療のスタートだろう。初めてヒトゲノムの全配列を解読できたのが2003年。コンピューターの性能が上がり、情報処理能力が向上したことも大きい。他に大きな変化とは。

 石澤 病気を分類するとき、これまでは顕微鏡などでがん細胞を見て確認する形態学的分類が主流で、染色体や遺伝子を見ることは付属的な扱いだった。しかし、最新のWHO(世界保健機関)の診断基準では、まずゲノム異常を確かめることになっている。このようにゲノム医療は、病気を分類するコンセプトも変えた。